仁井田 穏彦(にいだ やすひこ)有限会社仁井田本家社長にインタビュー
日 時:平成25年10月17日(木)、午後2時~3時
場 所:仁井田本家事務所など
訪問者:今井淑子、阿部桂子
1、自然米100%+自然派酒母100%を目指したきっかけは?
お酒の原料は米と水、良い米と良い水が「身体にいいお酒を造る」原点です。酒造りを続けていくためには、大切な水源を守り、元気な田んぼを増やしていかな ければなりません。ですから、自分たちの手で納得のゆくまで、無農薬・無化学肥料の自然米づくりをしようと決意しました。
先代の父の代から自然酒づくりに取り組んできましたが、平成23年に創業300年を迎えるのを機に、この年までに自然米使用率100%を達成することを目指し、平成21年4月に農業生産法人の認可を受け「仁井田本家あぐり」を設立しました。 また、平成21年10月に自社田の自然米が有機JAS認定を受けました。その結果、当社は、平成23年に日本で初の100%自然米使用の酒造となりました。
全量自然米での仕込みは冒険であり、大きなチャレンジです。しかし、代々の当主が次の世代のために大切なものを残してくれたように、元気な田んぼを一枚でも多く次の世代に残すことが、今を預かる仁井田本家の蔵人の使命と考えます。
近年はあまさけ、お米のヨーグルト『米(マイ)グルト』といったノンアルコール商品や塩麹などの発酵食品にも力を入れていますが、これも従来の日本酒に縁のなかった層に訴えかけ、米の消費量を増やすことが田を守ることにつながると考えています。
無農薬・無化学肥料にこだわるのはこの地で100年先も継続・永続して田んぼを行っていきたいと考えているからです。現在、仁井田本家のある金沢地区の田は約60町歩ですが、自社田を含めた自然栽培・無肥料栽培を行っている田は約6町歩です。通常栽培方法だと1反あたりの米の収量は600kgですが、自然田では300kg、5俵に半減します。しかし、金沢地区の田がすべて自然田になれば、全体で3000俵収穫できる計算になり、当社の酒造りをまかなうのに充分な収穫量になります。2025年(平成37年)までに、金沢地区の田をすべて自然田にするのが目標です。
2、スタッフ全員が「発酵のプロフェッショナル」になるというのは、どういうこと?
古くから日本の酒蔵は、杜氏と呼ばれる酒造りのプロ集団に造りを任せてきました。東北では岩手の南部杜氏が有名です。杜氏は地域ごとに育成され、農閑期の 冬に各地の酒蔵に出稼ぎに出ていました。しかし、杜氏が代替わりすると蔵の酒の味が変わってしまい、元の味を取り戻すまでに何年もかかります。
そこで私は酒造りに直接携わるために当社に来ている杜氏に教わり、自分自身が杜氏を務めることにしました。また、全員が「日本酒のことなら何でも知ってい る、酒造りのプロ集団」を目指して、営業や管理職の社員も杜氏になる気構えで洗米を手伝うなど、酒造りの全てをマスターする努力をしています。
酒のプロフェッショナルになるには米づくりも大切な勉強だと考え、自社田で、社員全員による自然米栽培を行っています。
3、震災の影響はありましたか?
東 日本大震災では、土壁の表面がはがれ落ちてしまったり、井戸水の配管が破損して水が漏れてしまったりと幾つかの被害がありましたが、仕込んだお酒や瓶詰め されたお酒は奇跡的に無事でしたが、もともと当社のお酒は健康・オーガニック志向の強い方に好まれていたので、原発事故による風評被害の影響を大きく受け ています。
しかし、当社のある場所は県内でも最も放射能被害が小さい地区で、放射線量も今年は震災前のレベルに改善されています。
今後はイベントや、蔵元見学などを通じてお客様に現状を知ってほしいと思っています。
4、平成32年に東京オリンピック開催が決定し、今後外国人に日本酒をアピールできる機会が増えるかと思いますが、どんなお酒をお勧めしますか?
代表ブランドの「自然酒」は、自然米の旨味・甘味を最大限に引き出した味の濃さで外国の方にも自信を持ってお勧めできます。「穏(おだやか )」ブランドはどんな料理とも相性良く味わっていただけるおさけなので、食中酒としてお勧めします。
また、数量限定品の「穏(おだやか)白麹」は、本来焼酎で使われる白麹で仕込み、白麹が造りだすクエン酸の力を借りて、醸造用乳酸を全く使わずに育てた「自然派白麹酒母」を使っているので、クエン酸の強い、白ワインを意識した味わいになっています。
5、今後の目標をお聞かせください。
仁井田本家は自給自足の蔵を目指しています。そのため蔵のある田村町をとり残された田舎ではなく、「山が豊かで、きれいな川が流れ、元気な田畑が広がり、たくさんの生き物が いて、良い米や野菜がとれ、人が集う」誇りに感じる本物の田舎にしようと思い立ち、同じ思いを持った地域の仲間たちと共に「田村町有機の里計画」を始動しました。
また、「仁井田本家あぐり」では米の他にも自社畑で小豆や小麦を栽培しています。収穫物を使い、イベントで大福や酒まんじゅうをふるまったりしていますが、いずれは米と同様、小麦等も本格的に販売したいと思います。