山下 和彦(やました かずひこ)ふくしま心のケアセンター県中方部センター専門員(臨床心理士)にインタビュー
山下 和彦(やました かずひこ)ふくしま心のケアセンター県中方部センター専門員(臨床心理士)にインタビュー
日 時:平成26年7月31日(木)、午後3時30分~4時30分
場 所:ふくしま心のケアセンター県中方部センター
訪問者:今井淑子、大橋佳代
1.ふくしま心のケアセンターについて教えてください。
東日本大震災後の翌年2月に福島市に基幹センターを立ち上げ、4月に6つの方部、3つの駐在が活動を始め、現在は県北・県中・県南・会津・相馬・いわきの各方部と加須市駐在が活動をしています。
主な活動の1つは、東日本大震災で県内外に避難している住民への心・身体・生活の支援です。2つ目は、住民を支援している行政職員、社会福祉協議会職員、 仮設住宅や交流サロンの世話人などを対象とした支援者支援です。住民の方々が抱える課題が複雑化・慢性化する中で、支援者の疲労も懸念されています。3つ 目は、講師派遣です。当センターの専門員を派遣し心の健康やストレス対処、自殺予防についての講話を支援者や住民を対象に行っています。最後に、支援者対 象の研究会や市民対象の講座の開催を行っています。
当県中方部センターでは、保健師、看護師、作業療法士、精神保健福祉士、社会福祉士、臨床心理士の12名が連携して対応しています。
2.相談ダイヤルへ寄せられる相談はどのようなことでしょうか。
県の内外から相談が寄せられています。
県内からは、今の生活、これからの生活、健康の不安などの相談があります。また県外からは、避難先での適応の問題や、家族間での意見の違いや、放射能への 不安などから福島に帰りたいけど、帰れないといった問題があります。私たちはお話を聞いて、必要に応じ専門機関につなげていきますが、震災から3年が経過 し相談が徐々に深刻化してきているように感じられます。
3.震災当初と現在では、相談に変化がありますか。
当センターは震災後の2年目に開設されましたが、その2年目は東電に対しての怒り、住宅環境の問題、避難先での孤立といった訴え、症状としては身体症状や漠然とした不安や気分の問題が多く見られました。
現在は、特に住宅に関してより具体的で個別的な訴えが多くなってきています。復興公営住宅を申し込むかどうか、申し込むにしてもどの場所にするのか、一戸 建ての購入を考えるにしてもやはりどの地域に建てるのか、誰と住むかなどの判断が難しいようです。それは、震災で家族が分散し、それぞれの避難先で生活が 安定した状況での判断の難しさと言えます。症状も、より具体化してきています。現在は楽しみの喪失や気分の落ち込みなどのうつ症状、身体疾患、飲酒の問 題、不眠といった訴えが多くなってきています。避難生活が長期化し、ストレス状態が慢性化している中で、うつや飲酒の問題と関連が深い自殺を予防していく ことが今後非常に重要だと思います。
4.相談を受けていて感じていることをお聞かせ願えますか。
震災後3年以上経過している中で、生活の再建だけではなく、心の回復も個人差が大きくなり、格差が出てきています。その中で、当センターの専門員は生活再 建や心の回復に時間がかかっている住民と関わることが多く、その支援は専門性が要求され、根気がいる難しいものだと感じています。
私たちは、自宅に訪問し話を伺いながら、心身の健康についてのアドバイスをする、地域の専門機関につなげるなどの支援をしますが、その中でも特に「話を聞 いて欲しい。」という思いを一番感じます。故郷への喪失感を持ちながら避難生活を続けている方々には、話をきくこと、語ってもらうことがとても大切だと感 じています。
避難されている方々は、生活上のストレスだけではなく、故郷があるのに帰れない、荒れていくという現在進行形の喪失体験をしています。震災前に地域に根ざ した生活をしていた方ほど苦しみが大きいと思います。震災前に担っていた役割を喪失し、これから何を心の拠り所にして生活していけば良いのか分からないと いう状況があります。それは、ただ避難先で自宅を建てる、新しい仕事に就くといった事だけでは解消されにくい問題です。心の拠り所は、故郷の風景、空気、 思い出など、その人が震災前から培ってきた心の奥底にある何かと深く関係があると思います。そのような心の拠り所を根こそぎ奪われた方が、その人のペース で、その人なりの心の折り合いをつけるためには、腰を据えて話をきき、一緒に考える伴走者が必要だと思います。
私たちは、時にその伴走者になるときがありますが、大変な話だけではなく、「この状況の中で、そんな風に思えるのか?そんなことができるのか?」と感じる エピソードもでてきます。そのような時には、その人の生きる力というか、逆境の中での復元力というか、そういうものを感じます。
5.みなさんにお知らせしたいことがあればお伝えください。
避難されている方々の状況はさまざまです。テレビや新聞などで報道される内容や印象、または伝聞は、すべての避難者には当てはまりません。避難者と市民が 同じ地域に住んでいる者として、互いに関心を持ち、理解し合い、誤解や偏見が少なくなり、よりよい地域を作って行ければ良いなと思います。
最後に、私たちは各自治体と連携し、自治体からの依頼を受けて業務を行っているため、市民の方が当センターにご相談がある場合は、被災者相談ダイヤル「ふくここ」か、市の保健師さんにご連絡頂ければと思います。