浦部 智義(うらべ ともよし)日本大学工学部准教授にインタビュー

浦部 智義(うらべ ともよし)日本大学工学部准教授にインタビュー

日 時:平成26年4月16日(水)、午後4時30分~6時30分
場 所:日本大学工学部
訪問者:今井淑子、阿部桂子

1.先生の建築計画研究室ではどのような研究をされていますか。

色々 ありますが、例えば昨年までは、県内の中山間地で古民家を再生した集落の拠点施設づくりのプロジェクトに携わっていました。その集落には老舗の温泉旅館も あり、一定の交流人口はあります。しかし、高齢・過疎化が進む傾向にある集落を活性化するために、築100年以上の古民家を再生させて、日常的に人々が立 ち寄り交流できたり、観光客も気軽に利用できる拠点施設をつくるプロジェクトです。
古民家は昨年完成し、村や地元のNPOの方々が仕掛けられた様々なイベントも行われています。このプロジェクトでは建築面でも様々な工夫をしましたが、こ の様な地域資源を活かした計画では、人材面も含めたソフト面とハード面の融合というか同時並行的に考える大切さを再認識させられました。
研究としては、福島にある大学として震災復興に向けた住環境・まちづくり研究はもとより、その他、そもそもの専門である文化施設などの施設建築の研究やそ の派生として野外舞台建築・芝居小屋の研究、「ロハスの家」などの環境デザイン・パッシブ建築の研究やその派生としてインドの住宅の研究、住宅におけるこ ども室や子どもの遊び環境などの研究を展開しています。

2.東日本大震災及びその後の原発事故による避難者のための木造仮設住宅群の建築計画に関わることになったきっかけを教えてください。

私 と福島県との縁は、平成17年に日大工学部に勤務してからになりますので、何となく福島の特徴や風土が分かりだした頃に、東日本大震災を郡山市で体験しま した。また、その後の原発事故の報道などを聞いていて、その被害が深刻な福島県では相当復興に時間がかかることは、福島に精通していない私にでも予測でき ました。被災地にある大学として、また自分の専門分野からして、復旧・復興に関わることが出来れば、というか出来ることをやらなければ、とすぐに思いまし た。
災害時に建てられる応急仮設住宅は、通常はプレパブ建築協会によるものですが、今回の震災では、それではまかない切れずに、福島県では地元建設業者チーム を対象とした公募で不足分の建設を行うことになったのです。その公募に、震災前から様々なプロジェクトを協働して信頼関係が出来ていた地元企業とチームを 組んで、ログハウスで建設するなど様々な提案を盛り込んだ案で応募して、幸い高い評価を得て当選し実施に至りました。結果的に、約600戸のログハウス型 の仮設住宅が建設されました。
一戸・一棟の仮設住宅の計画・設計上の工夫に加え、仮設住宅団地をつくるに際しては、もともとあった樹木や散策路を活かした住戸配置、人の衆参や日常動線 を配慮した集会所やグループホームの仮設住宅団地の中央への配置、入居者の方々に高齢者が多く、元の暮らしで土いじりをされている方が多いことを予想して 仮設住宅の一画にクラインガルデン(家庭菜園)の設置、通路側にはき出し窓と縁側を設けて仮設住宅地でのコミュニケーションを促すなどの工夫をしました。
福島県では、避難生活が長期化することが予想されたので、配置などはなるべく普通の住宅地をつくる意識で計画しました。

3.ログハウス仮設住宅にしたのはなぜですか。

震災直後は、断熱材の不足も問題になっていました。そういった意味で、ログ材は内外装と断熱材を兼ねる材ですし、その厚みと天井・床を考えればそ れなりの断熱性能も得られます。室内も木の雰囲気を感じることのできる造りになり、直接触れる際にも暖かみを感じることができます。また、入居後の住まい 方を拝見していますと、ログ材が表わしになっている壁は、様々な簡易加工も施しやすそうです。また、ログハウス工法は一般在来工法と比べ、壁の立ち上げな どは大工職に限らず多くの人が施工に参加でき、被災者の雇用にもつながります。これは、ログに限った事ではありませんが、地元木材の利用は県内産業の復興 へとつながります。ログは、一般在来工法より木材の使用量は多いですしね。
さらに、ログハウス型仮設住宅としての役割が終わった後に、ログ材そのものは再利用できる割合も高いので、移設や一部間取りを変更して復興住宅などへの活用も検討出来ます。

4.これからの福島県の復興にはどのような取り組みが必要ですか。

復興を成し遂げるには時間がかかるという前提に立ちますと、言い方が難しいですけれど、日常の活動が復興につながる様に、また復興への活動が日常となる様な、復興への取り組みと日常の取り組みが連動することで、時間と戦えるのではないかなと思います。
復 興住宅の問題にしても、公的な復興公営住宅の整備はもちろんですが、例えば、個人で住宅購入を考えている方に、地元の工務店や建設会社の情報も上手く伝わ る仕組みが必要かも知れません。その様な消費者にとって暮らし方の選択肢を広げたり、地産地消の可能性を探るのは、何も震災復興に限った事ではなく日常的 な問題として取り組むべきことかも知れないですよね。私たちは、その様な観点も含め、様々な活動・情報交換が行える場づくりと建築技術を見える化する目的 で、県内外の建築関係者らと共に、郡山市内に「小規模コミュニティ型復興住宅技術モデル」の計画4棟のうち3棟完成させ、今年中に完成を目指しています。 ここでは、浦部研究室とも連携した「NPO福島住まい・まちづくりネットワーク」の拠点として、上述したような復興と日常が上手く連動した様な実質的な活 動の場に発展できればと思っています。県内のみならず県外との情報交換も行われると良いですよね。
コミュニティに関しても、震災以降、再び注目される様になりましたが、いきなり町単位のコミュニティの話になっても実感がわかないので、数軒でまとまって 暮らす小規模での形を表現することで、復興住宅での新しい隣近所との関係のつくり方、見方を変えて高齢者どうしも含めてお互いにケアできる関係のつくり方 など、を表現することが重要だと思いもあってモデルをつくりました。その小規模が幾つか集まったり重なり合って中規模になり、その先さらに町につながって 行くのではないかと。
いづれにしても今後においては、震災前の元の住まいの家族をベースに考えて見た場合、元の住まいと避難先・復興公営住宅など二地域以上に分散したり往来型 の居住スタイル、また元の住まいに戻った際には超高齢化した集落での暮らしなど、従来あまり想定していなかった暮らしが展開される可能性もあります。それ らが日常になるとしたら、それに対応する住環境(もちろん、インフラ整備や冒頭の古民家再生に見る社会的施設整備なども含む)を考えることが復興につなが ることになると思います。